親父からの挑戦状2014/03/29 10:24:45

空
親が子どもに最後に教えることは、人は如何に死んでいき、その後、弔いにはどのような手続きが必要なのかだとしみじみ思った。
と言うのも、3月25日の昼に親父が心肺停止という連絡を病院から受け、会社を出てから実家に向かい、葬儀を終えるまで、数多くの業務や手続きが待ち受けており、「人が一人死ぬというのは、想像以上に大変なものなのだな」と思ったからだ。

葬儀の規模や内容については親父が生前に葬儀社と契約していた。棺に入れるものも指示があった。無宗教で弔問客も少なく、極めてシンプルな葬儀を望んでいたため、それ自体は家族にとって負担となるものではなかった。
だが、親父本人もまさかその日に死ぬと思っていなかったため、近々に必要な病院や葬儀社への支払い、お袋の当座の生活費など、お金のありかがまったくわからない。
親父本人名義の預金通帳やキャッシュカードは、死亡後には使えなくなるため、下世話な話ではあるが、お袋名義の預金通帳とキャッシュカードを探し出すことが急務だった。お袋が、ここに隠してあると教えてくれたところにはない。どうやら親父が勝手に置き場所を変えていたようだ。

今日の悲しみよりも、明日からの生活だ。まずは妻と娘と息子と4人で実家の家捜し。それぞれ担当を決めて、居間、寝室、和室、洋室などを捜索。
妻は寝室から、棺に入れるようにと親父が書き残してあった愛読書を発見。オイラは洋室の本棚の中からお袋名義の通帳を発見。これは箱入り上製本の箱の中に隠されていた。子どもたちが「おじいちゃん、ルパン三世かよ!」と言う。但し、その箱の横に中身の本がきちんと並べてあったので、同じタイトルが続き、すぐにおかしいと気づいた。いまいち甘いぜ、ル〜パン(by 銭形警部)。
続いて、居間の茶箪笥から大きな財布を発見。千円札ばかり数十枚入っていて、その分厚さに驚く。他に何か入ってないかと調べるが、千円札ばかりだ。
ない、お袋名義のキャッシュカードはどこにもない。通帳が見つかったので、お袋が銀行に行き、カードを再発行すれば良いだろう。しかし、このカードの謎は親父から我々への最後の挑戦状なのだと、みんなすっかりその気になる。子どもたちは「名探偵コナン」の気分。妻は「マルサの女」の気分。オイラはやはり「シャーロック・ホームズ」か。

もう一度、部屋を一つひとつ4人がかりで徹底的に捜索する。だが、見つからない。娘が芝居がかった口調で天を仰いで言う。「もう、おじいちゃん、わかんない。どこにあるの?」。
妻が、「もう一度、原点に戻って、整理しましょう」と提案する。
「まず、本棚から発見された通帳」。通帳をテーブルに置く。
「次に、茶箪笥から発見された財布」。オイラは財布を開き、「中には千円札が1、2…30枚と…、ん?…“!”あった!キャッシュカードがある!」。
えー!と驚く名探偵たち。探していたカードはそこにあった。「さっき見た時はなかったよ!」と抗弁するオイラ。「私も確認した。カードはなかった…」。不思議なこともあるものだ。先ほどは現金の方に目を奪われ、カードを見落としていたのか。それは親父が仕掛けたトリックなのか。それとも娘が「もう、おじいちゃん、わかんない。どこにあるの?」と呼びかけたから、孫に甘かった親父が財布に入れてくれたのだろうか。不思議なこともあるものだ。

不思議と言えば、キャッシュカードの捜索中に見つけた謎のメモ。
うちの親父は、どこかの工作員か何かだったのだろうか。

謎のメモ