佐野元春 & THE COYOTE BAND「今、何処 TOUR 2023」2023/06/26 14:09:13

2023年6月25日 18:00、佐野元春 & THE COYOTE BAND「今、何処 TOUR 2023」が定刻通りに開演。2022年7月に発表された現段階の最新アルバム「今、何処」を中心に、近年の楽曲が演奏されていく。一般的に「佐野元春」と言えば「SOMEDAY」「アンジェリーナ」の人と思われていて、Z世代には馴染みのないアーティストだろう。しかし1980年に「アンジェリーナ」でデビューして以来の革新性、時代の一歩先を行く活動は67歳を迎えても健在で、最新アルバムでも(制作期間中には起こっていなかった)パンデミックや戦争、沈みゆく日本という国の今が歌われている。
ライブは佐野自身が新型コロナウイルスに感染し、2都市の開催延期を挟んで3週間ぶりの再開ということもあり、舞台上も客席も気持ち全開で進んでいく。タイトに引き締まったTHE COYOTE BANDの演奏と往年の音域は出ないが自分の今に合わせた声、そして舞台奥のスクリーンに投影される映像と歌詞のワードが、我々が今、置かれた現状をロックンロールフォーマットに載せて浮き彫りにしていく。クールだが熱い演奏、それに応えて温かで心のこもった観客の拍手。今夜、日本の名古屋から、世界に向けて確かに放たれた熱気。世界の今が良いとは思わない。そして、我々にできることなんて、ほとんどないかもしれない。それでも、我々は今、此所にいるのだと。だからこそ言いたい。アンコールで歌われた過去の楽曲「約束の橋」と「アンジェリーナ」は蛇足であると。「アンジェリーナ」のサビで拳を振り上げる観客のお約束のアクションは(長年疑問に思っているが、なぜ女性の名前で拳をふりあげるのだろう?)今、此所ではない感がしてならなかった。
tour2023

ドライブ・マイ・カー2023/05/09 15:38:34

カメラはじっと固定されたままだ。人物の表情のわずかな揺らぎを逃すまいとするかのように。極論すれば、語る言葉は何だっていいのだ。それが本音でも、本音でなくても。本音なんて、自分でもわからないのだから。だからこの映画は、村上春樹の短編小説「ドライブ・マイ・カー」他2編を原作にしていながら、実はチェーホフの「ワーニャ伯父さん」であっても何ら問題がない。ただじっとカメラは、人の表情の揺らぎを、気持ちの揺らぎを待っている。だからこその「ゴドーを待ちながら」の2時間59分なのか。

ミリオンダラー・ベイビー2023/03/22 11:58:23

Amazon Prime Videoでの見放題終了間近と気づき、クリント・イーストウッド監督の「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)を観た。全く事前情報なしだったので、てっきりイーストウッドが老トレーナーを演じた女性版ロッキーだと思って、鼻くそほじりながら見始めたら、途中からシビアな展開になり、鼻の穴に入れた指が止まってしまうくらいの物語だった。視聴後に調べると、アカデミー賞主要部門を受賞したにも関わらず、賛否両論であちらこちらから批判や抗議を受けたと知った。宗教や人種、格差社会など日本人には伝わりにくいメッセージもあると思うが、それでも生きることに立ち向かうイーストウッド映画の真骨頂を見た気がする。

1980年の京都、ヒポクラテスたち2023/02/24 09:12:09

Amazon Prime Videoで「ヒポクラテスたち」(1980年公開)を観る。京都府立医科大学出身の大森一樹監督が自らの医学生時代をモデルに描いた映画。ロケはモデルとなった府立医大を中心に京都市内でも行われ、1970年代後半の京都の町並みが映る。今ほど整備されていない川端通り。まだ地上にあった京阪の三条駅。記憶の中の風景がそこにあり、公開当時14歳だったはずなのに、なぜか登場人物たちと一緒に医大に通っていた気になった。学ぶことや熱中することは違っても、1980年代に京都の大学で過ごした空気は似ている。映画では医学生仲間は大学卒業後、それぞれの道へ進む。そこには、希望もあり、悲しい現実もあった。実際、演じた俳優たちもその後、大成した人も亡くなった人もいて、映画公開から40年過ぎたが、まだストーリーは続いているように思えた。大森一樹監督もお亡くなりになったが、あの時代をフィルムに焼き付けたこの作品の命は、まだ終わっていない。

『The Beatles Get Back』2021/12/12 15:38:20

6時間超の『The Beatles Get back』をようやく観終える。
中学生の頃、「ビートルズ・シネ・クラブ」が主催した映画『Let It Be』を京都会館第一ホールで観た。その時の印象は、解散直前のドキュメンタリーという知識からか、ギスギスとした殺伐とした場面が多かったように思っていた。しかし、この6時間超の映像を見ると、ギスギスしたり、ケンカしたりすることもあるが、基本的に4人は楽しそうに演奏しているし、仲の良さやお互いへの信頼が感じられる。
また、映画『Let It Be』ではルーフトップコンサートはもっと寒々しく、氷雨まで降っていたように思っていたが、実際は寒くても、時折陽も射している。編集や観た時の受け止め方で、印象は随分変わるものだし、真実はそこにいた人にしかわからないものなのだろう。
この作品は、ものすごく気の遠くなるような制作作業だったはずだが、作る意味も、観る意味もある作品だと思った。また、映像がものすごく鮮明で、やたらと狭いスタジオで煙草を吸うからから、ポールは意外と鼻毛が伸びている、というのも印象的だった。明日から、ビートルズのアルバムを一から聴き直そうと思う。
getback